民法改正と賃貸について

2020年4月1日から賃貸借にかかる6点が大きく変わりました。以下の6点についてご説明いたします。
①連帯保証人の債務保証について
②契約中の修繕について
③一部滅失による賃料減額について
④契約中に所有者が変わった場合について
⑤契約終了後の原状回復義務について
⑥契約終了後の敷金返還に関して

①連帯保証人の債務保証について

2020年4月1日以降の賃貸借契約では、個人が連帯保証人となる場合にはその保護のため「債務の極度額の明記」が義務づけられました。極度額を定めていない場合には連帯保証契約自体が無効となります。

全宅連で出している書式から抜粋したデータを掲載しました。以下のように連帯保証人の欄に極度額を記載する欄が設けられました。契約書の中に極度額についての表記があり、その説明を行って署名・捺印を頂くことが連帯保証契約が成立する要件となります。

▲極度額の設定にあたっては国土交通省より参考資料が公表されています。
※参考資料は国土交通省が家賃債務保証業者より集めたデータにより損害額の算定を行ったものです。

●調査対象
国土交通省の家賃債務保証業者登録制度に登録している家賃債務保証業者13社
●対象期間
平成28年又は平成29年のデータのうち直近で集計可能な過去1年分又は直近1,000件
●集計件数
20,886件

賃料帯別に以下の8つに設定した「保証会社が負担した額」
①4万円未満⇒平均値17.7万円/最高額178.4万円
②4万円~8万円未満⇒平均値28.2万円/最高額346.0万円
③8万円~12万円未満⇒平均値50万円/最高額418.6万円
④12万円~16万円未満⇒平均値71.2万円/最高額369.3万円
⑤16万円~20万円未満⇒平均値97.3万円/最高額478.5万円
⑥20万円~30万円未満⇒平均値126.2万円/最高額606.8万円
⑦30万円~40万円未満⇒平均値156.8万円/最高額887.4万円
⑧40万円以上⇒平均値437.3万円/最高額2445.3万円

〇国土交通省HP:賃貸借住宅標準契約書について※極度額に関する参考資料リンク有り
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk3_000023.html

連帯保証人が不測の損害を被らないための改正なので賃貸借契約期間の24か月分を限度とする極度額であれば適法となるのではないかとの見解が示されている。

大手住宅メーカーを中心に連帯保証人なし、クレジット保証や家賃保証会社による連帯保証人なしの賃貸保証契約が主流となってきている。

②契約中の修繕について

改正前の民法では入居者が修繕を行った場合、どこまでを貸主に請求できるのか明確なルールはありませんでした。改正後は、修繕が必要であることを伝えたのに貸主が相当な期間、修繕をしてくれなかったり事態が急迫しているときは貸主の対応前に入居者が修繕をしても修繕費の請求ができるというルールになりました。

③一部滅失により賃料減額ルールの明確化

室内の設備などが故障した場合、改正前の民法では借主は貸主に「賃料の減額を請求することができる」というルールがありました。改正後の民法では、「賃料は、その使用及び収益をすることができなくなった部分の割合に応じて、賃料は減額される」という強い表現の文言に変わりました。

下記のように(一部滅失等による賃料の減額等)の条文が追加されました。全宅連の書式ではこの条文が追加されただけですが、実務レベルでいくとこの条文追加だけでは不十分だと考えます。

大和リビング㈱で使用している契約書面から抜粋したものです。(第14条2項)となっているのが賃料減額についての条文です。

免責日数が設定されていることと、※印の「乙の責めに帰すべき事由により甲が修繕できない期間も計算期間から控除するものとする」の2点がポイントです。この2点を抑えることで「設備に不具合が発生したら速やかに報告してください、又不具合が発生してから修理を行う日数に関しては減額に応じません」という意味になります。

管理会社としては、不具合の連絡を受けてから修理を発注して完了するまでの流れを書類に残しておくことで万が一裁判に発展してしまった場合でも適格に対応できると思います。

④契約中に建物の所有者が変わったときについて

オーナーチェンジで借りている部屋の所有者が変わった場合のルールが明確化された。改正前では、新しい所有者が入居者に家賃の支払いを求める明確なルールがなかった。改正後は、不動産の所有権移転登記が行われていれば、登記上の所有者がオーナーとなり賃料の請求ができると明記される。

⑤契約終了後の原状回復義務について

民法の改正によって国土交通省のガイドラインによって運用されていたルールが明文化されることになった。通常損耗や経年劣化は原状回復の対象外と解される。

※国土交通省HP「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」について

https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk3_000020.html

⑥契約終了後の敷金返還について

民法の改正により敷金で補填すべき債務が明確化されました。「賃借物の明け渡しまでに、未払賃料や損害賠償金等の債務が発生していなければ、敷金は全額が返金すべきである」※損害賠償の部分として認められるのは、賃借人の故意や不注意等、通常ではない使用により賃借物に損傷・汚損等を生じさせていてその損害を賃貸人に対し支払っていない場合。

敷金という名目の金銭を受領しない方が良いのか?特約でクリーニング費用など一定の金額を差し引くことはできないのか?

以下の3点について抑えて頂ければ特約として有効と判断されます。
①賃借人が負担すべき内容・範囲がしめされていること。
②本来賃借人負担とならない通常損耗分についても負担させるという趣旨及び負担することとなる通常損耗の具体的範囲が明記されており説明がなされていること。
③費用としての妥当性

全宅連で出されている書式を参考資料として閲覧ください。